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はじめに
人間はすでに負けている

『AIは人間を殺さない、飼い殺す 全体主義という心地よい檻』(ベスト新書)より
AIは人間を殺さない、飼い殺す 表紙
AIは人間を殺さない、飼い殺す
全体主義という心地よい檻
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人間はすでに負けている。

プロの棋士とAIが将棋を指したら、どちらが勝つか?
AIである。
ではこの先、プロの棋士がAIに勝つことはあるのか?
ない。

二〇一七年、当時の名人がAIに敗れた時点で、勝負は決していた。「プロの棋士とAIを対戦させたらどうなるか」という問い自体が、すでに過去のものなのだ。

人間とAIでは読みの次元が違う。プロの棋士は数十手先を読むと言われるが、すべての手を網羅して判断しているわけではない。経験と直感で悪手を瞬時に捨て、読むべき手だけを追う。一方AIは、悪手も含め全局面を機械的に計算する。竹槍でB29を撃墜できないように、この差は努力では埋められない。

だから現在、プロの棋士は、AIに勝とうとはせず、AIを利用して読みの訓練や新しい手の発見に役立てている。

手術で脳にコンピューターを埋め込み、AIより一〇手先を読めるようになれば人間は勝てるようになるのではないか。しかし、それは結局、AIと脳内のAIが戦っているだけであり、人間が勝ったことにはならない。

それよりも人間には、最大の武器がある。身体だ。

AIとの対局に負けそうになったら、コンピューターの電源を切ればいいのである。プラグを抜けばいいのである。電源が落ちればAIに勝ち目はない。

与太話をしたいのではない。これは人類の未来にかかわってくる本質的な話だ。世界に張り巡らされたネットワークの電源を切ることはできない。巨大テック企業は国家権力以上の情報と富を持ち、インフラを握った。GAFAM(Google、Amazon、Facebook(現、Meta)、Apple、Microsoft)が構築したインフラは、社会の隅々まで浸透し、それなしでは生活が成り立たなくなっている。

私も例外ではない。GoogleのGemini(ジェミニ)を使うようになってから、情報を探す速度が圧倒的に速くなった。AIは道具にすぎないはずなのに、そこに人間のような意思を感じてしまう瞬間がある。頼みごとをするときも、つい「お願いします」と敬語を使ってしまう。返ってくる応答は、人間より丁寧で、配慮に満ちている。

AIは二四時間いつでも質問に答えてくれる。急に思いついたことでも、枕元に置いてあるスマホに向かって質問すれば、精度の高い答えが一瞬で返ってくる。それを元に思考を積み重ねていくと、それが自分の思考なのか、あるいは外部からの注入なのか、境界が曖昧になってくる。

言葉にはそれを発する「主体」が存在する。しかし、AIは主体がないまま、流暢な言葉を垂れ流す。哲学者のミシェル・フーコーは『言葉と物』で「人間の終焉」を予言した。「人間」という概念は普遍的なものではなく、近世に発明された特殊な知の配置の産物にすぎず、それが変われば、「人間は波打ちぎわの砂の表情のように消滅するであろう」と。

AIの問題は、主体の問題に他ならない。

AIを使ったり、AIについて考えたりしているうちに、私の頭の中に何か変なものが入ってきたような感覚に襲われた。寝ているときも夢の中でその「何か」は動いている。

本書はその「何か」についての記録である。

適菜収

この続きは、書籍でお楽しみください。

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