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「はじめに」全文公開

百の兆候

『日本崩壊 百の兆候』(KKベストセラーズ

地震の後に、「そういえば、前日の空の色が変だった」「見たこともない形の雲が出ていた」「井戸の水が濁っていた」といった声が出ることがある。他の兆候としては、地盤の隆起や沈降、海面の変動、温泉の枯渇や異常湧出、温度変化、地鳴りなどもある。ナマズやネズミなど、動物が異常行動を示すという話もある。

現在の科学技術では、地震の発生時期、場所、規模を正確に予測することはできない。それでも注意深く兆候を観察することにより、準備、警戒することはできる。

これは自然災害に限った話ではない。たとえば、恋人と別れてしまった後で、「あのときの一言はそういう意味だったのか」「あのとき、ああすればよかった」と後から気づくこともある。

後悔先に立たず。兆候はたくさんあったのに、そしてそれを肌で感じていたにもかかわらず、具体的な対応をしなかった結果、悲惨な末路を迎えることになる。自業自得と切り捨てるのは簡単だが、「なんか変だよな」と思いつつ、日々の生活に追われるのが人間でもある。

わが国は崩壊のカウントダウンに入っている。そしてそれは百の兆候に表れている。

別に大げさな話をしているわけではない。

これまで何度も書いてきたことなので、手短に示すが、三つのメルクマールがある。

一つは二〇一五年の安全保証関連法制定の際、国を運営する手続が破壊されたことだ。安倍晋三は、お仲間を集めて有識者懇談会をつくり、そこで集団的自衛権を行使できるようにお膳立てをしてもらってから閣議決定し、嘘とデマを社会に投下し、内閣法制局長官の首をすげ替え、アメリカで勝手に約束してきて、最後に国会に諮り、強行採決した。さらには首相補佐官の礒崎陽輔が「法的安定性は関係ない」と言い出した。発言を撤回したとはいえ、これは近代国家としての建前をかなぐり捨てたということである。

二つ目は、安倍政権下で省庁をまたがる大規模な不正が発覚し、責任がうやむやになっていることだ。財務省の公文書改竄、防衛省の日報隠蔽、厚生労働省のデータ捏造、法務省のデータごまかし、国土交通省の基幹統計の書き換え……。国の信頼は完全に破壊された。

三つ目は、二〇一七年、防衛相の稲田朋美が、「(南スーダンにおける自衛隊の活動について)事実行為としての殺傷行為はあったが、憲法九条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、(国会では)武力衝突という言葉を使っている」と発言したことだ。要するに国が憲法を無視していることを公言したわけだ。

これを正常な近代国家と考えるのは無理がある。

今、社会が疲れ果てている。多くの人がうんざりし、面倒になり、黙り込んでしまう。

その隙を狙って、いかがわしい連中がラストスパートをかけてきた。

兵庫知事選の斎藤元彦問題、東京都知事選の石丸伸二問題、大阪の維新問題も、根の部分ではつながっている。直接民意が反映される場所が狙い撃ちにされている。

兆候はすでに見えていた。統一教会問題、裏金問題、機密費流用問題、政治家と反社会的勢力のつながり、新型コロナの対応、政商による中抜き、ネトウヨ・ビジウヨの跋扈、オリンピック利権、メタンガス万博、主権放棄、地位協定の維持、全方位売国、マネーロンダリング、組織的なプロパガンダ(Dappi事件)、黒瀬深事件、都構想という名の大阪市解体、沖縄切り捨て、アイヌ差別、核共有、リコール署名詐欺、特定候補を再選させるための出馬……。ちょっと目についただけでも、腐敗は極限に達しているように見える。

プロイセン王国出身の哲学者・古典文献学者のフリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェは言う。

私が物語るのは、次の二世紀の歴史である。私は、来たるべきものを、もはや別様には来たりえないものを、すなわちニヒリズムの到来を書きしるす。この歴史はいまではすでに物語られうる。なぜなら、必然性自身がここでははたらきはじめているからである。この未来はすでに百の徴候となってあらわれており、この運命はいたるところでおのれを告示している(『権力への意志』原佑訳、河出書房)

私が時評を続けてきた理由は「大多数向け」ではない小さな話題(ニュース)を拾うためだ。一見、どうでもいいような話でも、後から振り返ったときに、重要な兆候だったというケースもある。ジグソーパズルのピースが当てはまるように。

歴史を都合よく修正・改竄する人々がいる。そして悪事が失敗しても、ほとぼりが冷めるのを待ち、世の中が忘れたころに再び動き出す。それに対抗するためには、記録し、蒸し返し、同じ批判を繰り返さなければならない。

本書は「BEST TiMES」の連載「だから何度も言ったのに」を再構成、加筆修正したものである。肩書や年齢などは当時のもの、引用も含め一部を除き漢数字に統一、一般人を除き敬称は省略した。また、引用の際は、適宜、改行を省略した。

適菜収

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